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名古屋高等裁判所 昭和29年(ラ)42号 決定 1954年11月25日

抗告人 杉山嘉一

訴訟代理人 長尾文次郎 外一名

相手方 杉山はな

訴訟代理人 天野末治

主文

本件抗告は之を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は「原決定を取消す。本件を名古屋家庭裁判所本庁に移送する。抗告費用は相手方の負担とする」との裁判を求め、その理由として、抗告人は昭和二十八年四月一日瀬戸市南山町千二百六十九番地にその住所を定めたから本件家事調停事件の管轄裁判所は瀬戸市を管轄する名古屋家庭裁判所本庁であり、尚、抗告人は軽度の脳溢血と強度の喘息のため右住所地より本件の係属する同裁判所岡崎支部へ出頭することは困難であるから、何れの点よりみるも、本件は名古屋家庭裁判所本庁へ移送さるべきものであるに拘らず、抗告人の移送申立を却下した原決定は不法であるから本抗告に及んだと申立て、疏明として、証明書一通を提出した。

依て、先ず、本件移送申立却下の審判に対し不服申立をすることができるか否やを考察すると、家事審判規則第四条ノ二は移送の審判については即時抗告の申立をなすことができる旨規定しているに反し、移送申立却下の審判については同規則、家事審判法並びに同法により準用せられる非訟事件手続法第一篇を通覧するも、特段の規定がないから、右審判に対しては即時抗告の申立をなすことができないものと言わねばならないが、家事審判法第七条により準用せられる非訟事件手続法第二十条第一項は裁判により権利を害せられたりとする者はその裁判に対し抗告をなすことを得る旨規定して居り、同条に言う裁判又は権利は実体法上の裁判又は権利に止まらず、訴訟法上のそれ等をも含むものと解すべきであるから、家事事件に於ける移送申立却下の審判決定により訴訟法上の権利を害せられたとする当該移送申立人は右審判決定に対し所謂通常抗告の方法により不服の申立をなすことができるものと解すべきである。従つて本件に於て、移送申立却下審判に対してなした抗告人の不服申立は即時抗告としては不適法であるが、通常抗告として適法であると言うべきである。

次に、本件に於て、抗告人は名古屋家庭裁判所岡崎支部より同裁判所本庁へ移送を求めるものであるが、かかる場合移送申立が許されるや否やにつき判断するに、地方裁判所又は家庭裁判所の支部は裁判所法第三十条、第三十一条ノ五、地方裁判所及家庭裁判所支部設置規則により当該地方裁判所又は家庭裁判所の事務の中区域的に制限せられた一部の事務を取扱うものであるが、之は行政上の事務分配に関するものに過ぎないから本庁と支部との間には裁判上の土地管轄の問題は生じない。即ち土地管轄は当該地方裁判所又は家庭裁判所の管轄を以て一単位となすべきものであるから、その地方裁判所又は家庭裁判所の管轄に属する以上支部の取扱事務範囲に属しない事件と雖も、之に対し土地管轄違の故を以て移送をなすことができないのであつて、支部がその本庁の取扱事務範囲に属する事件を受理したときは裁判上の移送の決定をなすべきではなく、只行政処分として事件を本庁に送付すべきであり、当事者も亦かかる場合右行政処分の発動を促すに止まり、移送の申立をなすことができないものと言うべきである。仍て、本件に於て、抗告人は名古屋家庭裁判所岡崎支部より同裁判所本庁へ家事審判法上の移送の申立をなすことは許されないのであるから、右移送申立は不適法として却下すべきである。原審判は原裁判所に適法に係属したことを理由として本件移送申立を却下しているから、本件に於て移送申立をなし得ると言う見解をとつていること明かである。従つて、此の点に於て法の解釈につき誤があると言うべきであるが、移送申立を却下したことは結局に於て相当と認むべきものであるから、本件抗告は理由がないものとして之を棄却すべきものとする。仍て、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、第二十六条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第二項を適用し、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 北野孝一 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 小沢三朗)

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